鹿鳴のすべて

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鹿鳴は身体の中にいくつもの汀を持つ青年であった。ほんらいならば水平線が立つべきところにあたらしい汀が出来ては重畳なり、波は何処かから不図あらわれるばかりで、帰るべき大いなる源をついに持つことはなかった。彼の身体のなかに入って釣りをすると、浅い処をこのむ魚ばかりが魚籠の中にたまった。鷺がやってきては白い羽を落としてまた飛び立ってゆく。どこまで歩いていっても、はだしの足の甲の肌色が水の表面に映るような、そんな青年であった。
(本文より)


カテゴリ:
小説

収録作:
「鹿鳴のすべて」

PDFページ数:
57p

仕様:
zip(pdf/epub/mobi/書影)

最終更新日:
2021年3月28日

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